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旧原田邸は1年半かけて職人さんたちと修繕、リノーベーションを丁寧に行いました。母家、蔵、長屋門、どの建物も老朽化しており、色々と手を入れる必要がありました。特に長屋門は屋根が一部崩れ落ち、雨漏りしていました。また生活道路に面しており、登下校の子どもたちや地域に不安を与えていました。一番最初に取り掛からなければいけない修繕工事が長屋門でした。と同時に、長屋門が一番地域と繋がった場所でもあり、この門が毎日朝から開き、季節の果物が届き、明かりが点き、音や匂い、働く人の動きが地域の日常の賑わいになればと考えました。旧原田邸を支えながら、地域の賑わいを生む長屋門を「ものづくり」の仕事場にすることを決めました。
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| 木陰の気持ちいいテーブルはスタッフさんの休憩スペースとしても使われる |
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テラス側から庭を見る
緑のあふれる素晴らしい職場環境 |
旧原田邸のリノーベーションのコンセプトは、「水と緑」。母家、蔵、長屋門を修繕し、それぞれの建屋が「水と緑」で繋がり、季節に寄り添う仕事場であり、地域に開いた場を目指しました。コンセプトを実現する外構工事は、水辺のカフェの庭を作ってもらった庭師の福田さんに依頼。母家の本体工事をする前に外構の予算取りをし、500坪の旧原田邸の敷地を手掛けてもらいました。母家の客間前の主庭は、元々飛び石がある眺めるための日本庭園でしたが、コンセプトのメインをここに表現することにしました。高梁川の「水と緑」を再現するビオトープを作るために、先ず穴を掘りました。
当時、小学生だった穴掘り名人の次男が鍬入れし、最終的に管を9メートル打ち込んだ地下の水脈から天然水が湧き出ました。水質検査に出すと、天然水として販売できるくらいのレベルでした。今、聞こえている水音は、かけ流しでオーバーフローした水です。ビオトープの中島に立っているハート型の葉がかわいい大きな木は、渓流に生息する桂です。またシンボルツリーには、和製マングローブとも呼ばれている立柳の木です。高梁川など各地の川の水際に生え、水を浄化してくれている木です。
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「水と緑」季節を取り込んだダイニングリビング |
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ビオトープの工事と同時に、庭師の福田さんは「水と緑」に母家からそのまま近づいて行ける広い縁側、デッキを造作してくれました。また、元々あった樹木や灯篭は、デッキをくり抜きそのままの位置に生かされています。このデッキでつなぐ「水と緑」により、私の中で生まれた発想が、母家から独立させたキッチンの棟です。母家にもビオトープにもデッキでつながっています。
元々母家の台所の位置は、裏方的な場所でしたが、ステージをイメージしてメインに持って来ました。4メートルあるテオリのキッチンカウンター、この場所に立って眺めてみて下さい。掃き出し窓の横長の大きな枠が、額縁効果になっていいでしょう。母家の縁側の窓も春から晩秋まで、基本毎日開けています。ここで表現しているのは、「水と緑」季節を取り込んだダイニングリビングです。
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キッチンの戸を開くと、母屋と庭の景色を額縁の様に切り取ってくれる |
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「地域社会人」の仕事場 |
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9年経った今、長屋門の瓦を見上げても古い本葺き瓦のままで、手を加えたようには見えないと思いますが、実は全部の瓦を下ろしました。そして屋根の下地の木を全てやりかえました。下ろした瓦は、職人さんが一枚一枚叩いて、鈍い音や小さな割れが入ったものを選別して、足らない瓦は裏の離れ(崩れて解体)から健康的な屋根瓦を持ってきました。
約30坪の長屋門、屋根替えだけでもだいぶお金がかかりましたが、かつての原田邸の姿が蘇りました。500坪ある敷地内に同じ30坪のプレハブを建てれば、三分の一くらいの費用で済んだと思います。例えば、建屋の初期投資が5年で回収できるとすれば、三倍の15年かかる計算になります。
経済的には5年のほうが評価されるでしょうが、15年かかる長屋門での経済活動「ものづくり」の仕事場は、「まちづくり」の場でもあります。毎日、その両輪が回っています。リーマンショックやバブルが弾ければ、たいていの企業は本業を守るために地域貢献やメセナ、スポーツ支援から手を引いてしまいます。しかし酒津の旧原田邸(長屋門)は、「ものづくり」と「地域の宝」どちらも本業故に、切り離すことのできない、今日も明日も持続的な「地域社会人」の仕事場です。
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三宅商店カフェ工房「季節の二層ジャム」
有名ブランドとの出会い
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ジャムづくりは、実はこれまで水辺のカフェや林源十郎商店のカフェでも、店頭販売するためのジャムは少量作っていました。それはスタッフのやりがい向上や旬の果物を有効活用するという側面もありました。
ここから
旧原田邸を支えるために決断したのが、カフェと切り離し独立したものづくりにチャレンジすることでした。
ベテランスタッフを集結し、新しいスタッフも募集しました。旧原田邸のものづくりチーム、三宅商店カフェ工房の誕生です。
ジャムや焼き菓子のものづくりは誰もがチャレンジしやすい反面、競争率は高く、小さくともブランド、メーカーとして認知され、自立するにはハードルが高いジャンルでした。
林源十郎商店開業当初(13年前)、本館三階でカフェの合間に作って店頭販売していた季節の二層ジャムですが、ある日卸販売して欲しいという依頼がありました。
スタッフが「社長、アローズの方が来られて〜」と言うのです。ファッションにうとい私にとって、アパレル業界最大手のユナイテッドアローズは、失礼ながら知りませんでした。さらにアパレルブランドがなぜジャムを売るのか理解できませんでしたが、ジャムはユナイテッドアローズが運営する六本木ヒルズ一階のウーマンズ原宿本店で販売されました。
そして季節の二層ジャムは、Casaブルータスや&プレミアムなどでも紹介されました。その後、ユナイテッドアローズに追随して、多くのアパレルブランドも食品のセレクトコーナーを展開しました。今思えば、ライフスタイルショップの火付け役は、ユナイテッドアローズのバイヤーであり、Casaブルータスの編集者、こういったアンテナの感度を持つひとが新しい価値や市場を開拓するんだなと感じました。
同時に、私たちスタッフが作る季節のジャムに自信を持たせてもらった出逢いでもありました。
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「共感」の輪で繋がるものづくり |
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そして今、地域と季節に寄り添い、契約農家さんのもったいないを生かしたジャムづくりの場は、旧原田邸の長屋門。地域と繋がるものづくりの現場は、都会の人が抱くイメージそのものです。歴史・文化があり、古いものを大切に活用し続けるものづくりには、「共感」というブランド力が生まれます。二層になった季節のジャムの組み合わせは、見た目にも美味しく発信力がありますが、本質に触れ、「共感」という輪がゆっくりと広がています。
三宅商店カフェ工房の季節のジャムは、DEAN&DELUCAの店頭にも並んでいます。 OEMで自社ブランド(DEAN&DELUCAラベル)の商品展開をすることが多い中、地域と季節に寄り添った私たちの仕事に、敬意を持ってオファーしてくれました。「そのままの御社のラベルに意味がある」「いつか私たちもこんな仕事がしたい」など、酒津の小さなメーカー、ブランドが「共感」の輪で繋がっています。
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長屋門は、地域と季節を繋ぐ結節点
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長屋門には毎年春、つばめが帰って来ます。3月下旬に巣作りし、卵を産み子育て、初夏に巣立ちし母家に入って来ます。長屋門は、地域と季節の結節点でもあります。高梁川流域の季節の果物がやって来て、ここで加工され新しい価値を持って出荷されていきます。現在、契約農家さんは、長屋門でジャムを作るようになって、それまでの15軒から30軒にまで増えました。「辻さんとこに言うたらなんとかなるで」と、規格外の果物の駆け込み寺のようになり、たくさんのもったいないをシーズン全量引き取り、経済を回すことが出来ています。
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長屋門は、地域と季節を繋ぐ結節点
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長屋門の中では、日々スタッフが季節の果物と向き合っています。特に夏は、桃祭り状態で早朝から夕方まで大忙しです。ジャムを作る上で、工房に本来窓は必要ありませんが、ジャムを充填する場所に大きな窓を設けています。あの窓からは原田邸のビオトープの水や緑、季節を感じることが出来ます。実は改修前、この窓の向こうに土塀がありました。今、ここに崩れた塀が見えていますが、これは働くスタッフの目通りを考えて、この部分の塀を取り除きました。よくワークライフバランスという言葉を耳にしますが、誰しも人生において一番多い時間が働く時間です。季節を感じながら季節のジャムを作る。ここでは、働く時間の中のワークバランスを考えています。旧原田邸は、私たちスタッフにとって仕事場でありながら、自然や季節に寄り添える場です。工房スタッフは毎朝つばめの巣を気にかけ始業、休憩時に木々の芽吹きや色付きに足を止め、さくらんぼやブルーベリーの季節にはちゃっかり手を伸ばします。日々この窓から、ビオトープの水や緑、季節を感じながら、季節のジャムを作っています。
この高梁川を再現したビオトープには、青いカワセミが飛来したり、「おっちゃん、ザリガニ釣らせて〜」と子どもたちもやって来ます。スルメをエサにじゃんじゃん釣りまくります。

長屋の工房からはビオトープで遊ぶ子供達の姿を見ることも出来る
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水に親しみ、水を楽しみ、水を活かす |
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手前の木製扉がかわいい小屋がフィンランド式サウナ
高梁川の地下水を引いた水風呂でととのう事が出来る |
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「水と緑」の旧原田邸は10年目を迎え、木々も成長して深々とした緑陰をつくり、どこにいても酒津の天然水が流れる音が聞こえてきます。今では敷地内に4つの井戸が掘られ、水に親しむビオトープに始まり、水を楽しむ露天の水風呂やフィンランド式のサウナ小屋、母家の二階と藏は宿泊可能で水を沸かして檜風呂で入浴が楽しめます。さらに母家と蔵の屋根に水を散水して、夏の室温上昇を抑えることに活用しています。旧原田邸は、私たちの仕事場でありながら、酒津サウナ、宿泊、記念日の食事会、勉強会&ケータリング等、一般の方が「地域の宝」を楽しめる場として共有しています。
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-おわりに-
「地域社会人」のきっかけづくり |
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原田邸に残る資料を見ながら話をする辻さん。
熱量のこもったお話を最後までして頂いた。
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私は地域社会人の仕事を「地域と季節に寄り添い、豊かさの本質と向き合うこと」と定義しています。地域の大切な宝を次世代に繋ぐため、誰もが豊かさの本質に気づき取り戻すきっかけのために、1995年から30年間、ひとづくりの仕事をしてきました。番組づくり、カフェや宿泊施設などの場づくり、ジャムや焼き菓子のものづくり、どれもが、当事者として観た人、訪れた人、食べた人が自分ゴトとして体感します。「地域と季節に寄り添い、豊かさの本質と向き合うこと」このきっかけづくりを30年やってきた結果、共感という輪が広がり経済的に自立した地域者社会人の仕事に成長しました。
「NPOなどの形でやったほうがいいのでは?」といろんな人によく言われましたが、人生で一番長い仕事の時間、そして誰もが参加できる仕事の時間、普通に仕事をすることが世の中や人のためになることを目指しました。今時代は、数字や肩書に縛られ過ぎて誰のための何のための仕事か、迷走しています。しかし、持続可能なアンテナを立て少しずつ地域人として、世の中や人のためになるコトに仕える、本来の「仕事」の本質を取り戻そうとしているようにも感じます。
社会人として時代や人生をこなすだけでなく、地域人としての熱量が試されています。地域人とは、生まれ育った場所や今住んでいる場所だけでなく、自然環境や次世代のこと、自分以外に思いを馳せることの出来るひと。先人を敬い次世代をおせっかいに思いやる心こそが重要であり、地域社会人としてのスイッチを入れてくれます。仕事の現場、仕事の時間を諦めず、各法人がもう一度、「地域社会人の仕事」に立ち返るきっかけの場にも旧原田邸はなっています。
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地域と季節に寄り添い「本質的な豊かさ」
を取り戻すきっかけづくり |
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これまで紹介した事業は、人に法人にスイッチを入れるきっかけづくりです。豊かさの本質は新たに植え付けるものではなく、もともと皆が持っているものを引き出すきっかけづくりが重要です。生身の人間が持つ心や感性は、体感する場やコト、ものに対して正直です。また本質的な豊かさは先人の時代から、世代や時代の塀も関係なく、普遍的な価値として私たちが共有してきたものです。
最初で最後の命、時代の瞬間的価値観に振り回されず、本質的な豊かさと向き合う命でないともったいないです。
30年続けてきた地域社会人の仕事は、今を生きるひと、これからを生きるひと、世界の誰もが出逢える「へいのない学校」です。
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ジャーナルにお付き合いありがとうございました。
インタビュー助手の感想ですが、本当に倉敷の事を、人づくりの事を思われていることが良くわかりました。
現実にくまから独立したスタッフさんは、地元の島を元気にすべく大三島でピザ屋さんを開業したり、地元を中心にパンをお届けしたり、実はジャーナル#19でお届けしたパティスリー「ROJAN BORO」さんもくま出身で、辻さんは新しい挑戦をするスタッフさんを送り出し応援されています。
実際に人づくりが実っていく所をとても喜んでいる辻さんを見ていると、「へいのない学校」という言葉を改めて納得しました。
今回で辻 信行さんのインタビューを終わります。
長いジャーナルになりましたが、深い活動の詳細を残せたジャーナルになったのではと思います。
次回からのジャーナルもお楽しみに。
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